アイスランドはヨーロッパで最も広い面積の原生地をもつ国家。人口は30万人で、まだ独立してから71年しか経っていない。2008年9月29日から同年10月6日まで、8日間の間で金融危機が起こった。この速度もすごいが、規模もまたすごく、この8日間の間でアイスランドは2007年のGDPの7倍以上の負債を抱えていることが発覚し、国民総生産対負債の比では経済史上最大の危機だった。
この危機の直後に、オバマ大統領は金融機関を国民の血税で救済することは今後二度としないという演説を行ったらしい。日本やアメリカにいると、「金融危機」の最近の例としてはサブプライム住宅ローン危機ばかりが話題にのぼる。たしかに、日本やアメリカの経済に直接影響を与えているという点ではこちらの方が身近な例なので、それは仕方ない。
他方で、負債発覚から事実上デフォルトまでの速度、また危機の規模、そしてその後のアイスランドへの海外企業の侵入の仕方などをみると、アイスランドの金融危機の方が遥かに注目に値する気がする。ヨーロッパの国、例えばギリシアやアイルランドにとっては、こちらの危機の方が話題にのぼるのかもしれない。将来自国にも起こりうることだからだ。
アイスランド金融危機がどのようにして引き起こされ、それがアイスランド国民の生活にどのような影響を与えたのかについては、ウィキペディアにかなり詳細にわたる優れた記事がある。
ことの発端は、2001年にアイスランドの銀行が規制緩和されたこと。これによって、海外の投資家から短期融資を受けることができるようになった。規制緩和されたからといって新規の融資を得なくてもよいのではないか、などと考えるのは甘い。増資を行う銀行が一つでもあれば、競争原理に従って他も増資しなければ生き残れなくなる―資本主義とはそういうもので、例えば『資本論』第2巻の前半にこの必然性が詳しく書いてある。
ともかく、海外からの融資を受け、国内では新しい巨大産業を立ち上げようという動きが始まる。そして、2004年にはアメリカに拠点を置く巨大アルミニウム製品製造企業「アルコア」がアイスランドに侵入、世界一のアルミニウム製錬所を製造する。
ちなみに、アルコア問題辺りからアイスランド国民の反発が強くなり、デモが毎週のように行われた。音楽家のビョークは積極的に国の政治について発信しているし、国内でも草の根活動を行った。ビョークの活動や記事を追うだけでも、2001年以降のアイスランドの急激な変化をかなり実感することができるし、アイスランドが現在置かれている状況がヨーロッパの他の国にとって他人事ではないということがわかる。
金融危機以降、海外資本と国民の血税とによってアイスランド政府は銀行の救済した。救済も一筋縄ではいかなかった。例えば、「Icesave bill 2」ではイギリスとオランダへのアイスランドの借金返済の期限を無期限にするという条件が含まれており―これによって、アイスランドは数十年もこれらの国の資本家たちのいいなりになる可能性もあった―なんとこれはアイスランド政府によって可決されたのだが、その後国民投票で否決された。さらにその後も「Icesave bill 3」が国民投票で再び否決され、この件は国同士の交渉ではなくEFTA裁判の問題として扱われることになる。そして、EFTAはアイスランドにはイギリスとオランダからこのような融資を受ける義務はないという判決を下した。(これによってアイスランドは上記の負債地獄の可能性から一時的に解放される。)
しかし、他方でアイスランド政府は多額の献金を海外企業から受け取っていた。その一つが、2010年にアイスランドに地熱発電所と水力発電所を大量に新設しようとした「マグマ」(Magma)社である。この会社は現在「アルテーラ」(Alterra)に吸収されている。
こうした発電所を新設する理由は、先述したアルミニウム製錬所を動かすための電力の供給をするためだった。国民にとっては必要のない新たな収入をつくるために、国民にとって利益もなくまた国土には一方的に負担を与えるだけの大規模な製錬所を建設し、今度はこの製錬所を動かす電力がないからと言って大規模な地熱発電所に加えダムを8個も新設する―短期間でアイスランドの国土を破壊する動きにアルコアとアルテーラが乗り出したわけだ。なぜこのようなことになったのかといえば、銀行の規制緩和に伴う海外資本の侵入が全てである。
金融危機以後、アイスランドでは失業率が上がり、ものすごいインフレーションも起きた。こうして被害を受けた国民の「ため」にと、政府はアメリカやカナダの大企業の侵入を許しているらしい―「雇用の創出」である。しかし、実際には、例えば発電所の建設や運営は中国から安く雇われた移民労働者によって行われるらしい。アイスランド人の雇用は増える見込みがないわけである。アルコアもアルテーラも、このことを承知の上でアイスランドに侵入している。(これについても、ビョークが当時のマグマ社の社長と交わした往復書簡に詳しいことが書いてある。ちなみに、マグマ社によるオルカ社買収については、ビョークが反対署名運動を開始し、わずか数日でアイスランド国民の10%が署名をした。その後、一時的に買収は先延ばしにされたが、2011年に完了してしまった。)
現在、アイスランド政府はアルコアに製錬所の建設を許し、アルテーラに国内一の電力会社の株の90%以上を所有されている。ダムの新設は進んでいる。さらに、これだけでは飽き足らず、政府は国立公園の面積を狭めようとまでしている。
この状況で、アイスランドの国土と原生地を守るためにできることは非常に限られているが、全くないわけではない。
(1)長期的には、アイスランドへの海外企業の侵入を防ぐ法律を立法していく必要がある。これはアイスランド国内の法律の専門家が行うしかない。
(2)短期的には、製錬所、ダム、発電所の新設を頓挫させる必要がある。アイスランド国民に限らず、世界の活動家が協力できる運動はこれだと思う。一度原生地が破壊され、ダムによって水の流れが変えられてしまえば、それを元に戻すことは不可能になる。それから立法しても遅い。そのため、この短期目標に全てがかかっている。
具体的には、建設に携わる労働者のストライキを促す。人が動かなければ作業も進まなくて済む。このプロジェクトに関わる労働者の人数は約2000人と言われているが、一年間で2000人の労働者の生活費を保障するためには約4000万ユーロ(54億円)が必要となる。集めるのが不可能な金額ではない。労働者の作業を停止させる方法は私には今のところ他に浮かばない―知識も理論も不足しているのが悔やまれる。
他方で、(ビョークの受け売りだけれど)環境問題をネガティヴな問題としてのみ考えるのは良くない。不可逆的な行為は防ぐべきだが、同時にアイスランドにどう収益をもたらすのかを考える必要もある。
アイスランドには、昨年は国民の二倍の人数の観光客が訪れている。ビョークだけでなく、シガー・ロスのようなバンドや、オラフ・オラフソンのような作家の影響も大きいだろう。一番大きいのは、アイスランドの独特の原生地と街並みだろう。つまり、工場をつくらない、発電所やダムをつくらないというのは、ネガティヴなだけではなく、観光産業を拡大するためのポジティヴな条件でもある。羊毛や海鮮を使って色々な仕事を始めることもできるだろう。スタートアップをするためには、必ずしも資本主義的になる必要はない。ただし、アイスランドでは現在色々と法的な規制があって、こうした小規模の起業がしにくくなっているらしい。こうした法律を変えることが大切。それも環境保護運動になるわけである。
この危機の直後に、オバマ大統領は金融機関を国民の血税で救済することは今後二度としないという演説を行ったらしい。日本やアメリカにいると、「金融危機」の最近の例としてはサブプライム住宅ローン危機ばかりが話題にのぼる。たしかに、日本やアメリカの経済に直接影響を与えているという点ではこちらの方が身近な例なので、それは仕方ない。
他方で、負債発覚から事実上デフォルトまでの速度、また危機の規模、そしてその後のアイスランドへの海外企業の侵入の仕方などをみると、アイスランドの金融危機の方が遥かに注目に値する気がする。ヨーロッパの国、例えばギリシアやアイルランドにとっては、こちらの危機の方が話題にのぼるのかもしれない。将来自国にも起こりうることだからだ。
アイスランド金融危機がどのようにして引き起こされ、それがアイスランド国民の生活にどのような影響を与えたのかについては、ウィキペディアにかなり詳細にわたる優れた記事がある。
ことの発端は、2001年にアイスランドの銀行が規制緩和されたこと。これによって、海外の投資家から短期融資を受けることができるようになった。規制緩和されたからといって新規の融資を得なくてもよいのではないか、などと考えるのは甘い。増資を行う銀行が一つでもあれば、競争原理に従って他も増資しなければ生き残れなくなる―資本主義とはそういうもので、例えば『資本論』第2巻の前半にこの必然性が詳しく書いてある。
ともかく、海外からの融資を受け、国内では新しい巨大産業を立ち上げようという動きが始まる。そして、2004年にはアメリカに拠点を置く巨大アルミニウム製品製造企業「アルコア」がアイスランドに侵入、世界一のアルミニウム製錬所を製造する。
ちなみに、アルコア問題辺りからアイスランド国民の反発が強くなり、デモが毎週のように行われた。音楽家のビョークは積極的に国の政治について発信しているし、国内でも草の根活動を行った。ビョークの活動や記事を追うだけでも、2001年以降のアイスランドの急激な変化をかなり実感することができるし、アイスランドが現在置かれている状況がヨーロッパの他の国にとって他人事ではないということがわかる。
金融危機以降、海外資本と国民の血税とによってアイスランド政府は銀行の救済した。救済も一筋縄ではいかなかった。例えば、「Icesave bill 2」ではイギリスとオランダへのアイスランドの借金返済の期限を無期限にするという条件が含まれており―これによって、アイスランドは数十年もこれらの国の資本家たちのいいなりになる可能性もあった―なんとこれはアイスランド政府によって可決されたのだが、その後国民投票で否決された。さらにその後も「Icesave bill 3」が国民投票で再び否決され、この件は国同士の交渉ではなくEFTA裁判の問題として扱われることになる。そして、EFTAはアイスランドにはイギリスとオランダからこのような融資を受ける義務はないという判決を下した。(これによってアイスランドは上記の負債地獄の可能性から一時的に解放される。)
しかし、他方でアイスランド政府は多額の献金を海外企業から受け取っていた。その一つが、2010年にアイスランドに地熱発電所と水力発電所を大量に新設しようとした「マグマ」(Magma)社である。この会社は現在「アルテーラ」(Alterra)に吸収されている。
こうした発電所を新設する理由は、先述したアルミニウム製錬所を動かすための電力の供給をするためだった。国民にとっては必要のない新たな収入をつくるために、国民にとって利益もなくまた国土には一方的に負担を与えるだけの大規模な製錬所を建設し、今度はこの製錬所を動かす電力がないからと言って大規模な地熱発電所に加えダムを8個も新設する―短期間でアイスランドの国土を破壊する動きにアルコアとアルテーラが乗り出したわけだ。なぜこのようなことになったのかといえば、銀行の規制緩和に伴う海外資本の侵入が全てである。
金融危機以後、アイスランドでは失業率が上がり、ものすごいインフレーションも起きた。こうして被害を受けた国民の「ため」にと、政府はアメリカやカナダの大企業の侵入を許しているらしい―「雇用の創出」である。しかし、実際には、例えば発電所の建設や運営は中国から安く雇われた移民労働者によって行われるらしい。アイスランド人の雇用は増える見込みがないわけである。アルコアもアルテーラも、このことを承知の上でアイスランドに侵入している。(これについても、ビョークが当時のマグマ社の社長と交わした往復書簡に詳しいことが書いてある。ちなみに、マグマ社によるオルカ社買収については、ビョークが反対署名運動を開始し、わずか数日でアイスランド国民の10%が署名をした。その後、一時的に買収は先延ばしにされたが、2011年に完了してしまった。)
現在、アイスランド政府はアルコアに製錬所の建設を許し、アルテーラに国内一の電力会社の株の90%以上を所有されている。ダムの新設は進んでいる。さらに、これだけでは飽き足らず、政府は国立公園の面積を狭めようとまでしている。
この状況で、アイスランドの国土と原生地を守るためにできることは非常に限られているが、全くないわけではない。
(1)長期的には、アイスランドへの海外企業の侵入を防ぐ法律を立法していく必要がある。これはアイスランド国内の法律の専門家が行うしかない。
(2)短期的には、製錬所、ダム、発電所の新設を頓挫させる必要がある。アイスランド国民に限らず、世界の活動家が協力できる運動はこれだと思う。一度原生地が破壊され、ダムによって水の流れが変えられてしまえば、それを元に戻すことは不可能になる。それから立法しても遅い。そのため、この短期目標に全てがかかっている。
具体的には、建設に携わる労働者のストライキを促す。人が動かなければ作業も進まなくて済む。このプロジェクトに関わる労働者の人数は約2000人と言われているが、一年間で2000人の労働者の生活費を保障するためには約4000万ユーロ(54億円)が必要となる。集めるのが不可能な金額ではない。労働者の作業を停止させる方法は私には今のところ他に浮かばない―知識も理論も不足しているのが悔やまれる。
他方で、(ビョークの受け売りだけれど)環境問題をネガティヴな問題としてのみ考えるのは良くない。不可逆的な行為は防ぐべきだが、同時にアイスランドにどう収益をもたらすのかを考える必要もある。
アイスランドには、昨年は国民の二倍の人数の観光客が訪れている。ビョークだけでなく、シガー・ロスのようなバンドや、オラフ・オラフソンのような作家の影響も大きいだろう。一番大きいのは、アイスランドの独特の原生地と街並みだろう。つまり、工場をつくらない、発電所やダムをつくらないというのは、ネガティヴなだけではなく、観光産業を拡大するためのポジティヴな条件でもある。羊毛や海鮮を使って色々な仕事を始めることもできるだろう。スタートアップをするためには、必ずしも資本主義的になる必要はない。ただし、アイスランドでは現在色々と法的な規制があって、こうした小規模の起業がしにくくなっているらしい。こうした法律を変えることが大切。それも環境保護運動になるわけである。