日本で一番大きな社会問題は何かと言えば、「貧困」である。貧困とは、他の社会問題の根本原因であると同時に、他の社会問題から発生する問題でもある。ギリシアの現在の状況から、全く収束していない東日本大震災の被災者たちの復興、過労や失業、シングルマザー、詐欺など、すべて貧困が深く根をおろしている。そのため、「貧困とは何か。貧困とはどう乗り越えることができるのか」と考えることは、「社会を良くしていくためには何をすればよいのか」と考えることと同じである。
貧困に陥っている人を救うということは、貧困に陥る「かもしれない」という恐怖におびえて働く人々を救うことにもつながる。私もそのようにおびえつつ生きる人の一人である。そして、そのような救いがほしいと、いつも思う。
実際に貧困状態にいる者、貧困に陥るのが怖くて仕方がない者は、日本のセーフティーネットが機能していないということを嫌と言うほど実感している。そのため、貧困や貧困への恐怖を社会から抹消するためには、セーフティーネットを改善する必要がある。
どのような改善策がありうるのか?
実は、選択肢はかなり限られている。というのも、「お前は貧困者だ」という烙印を押す可能性のある方法はすべてダメだからだ。具体的には…
- 食事や居所などの現物給付
- お役所での申請と審査が必要な現金給付
- 医療券など、申請が必要なクーポン給付
以上はすべてうまくいかない。
残るは、「匿名の現金給付」である。申請や審査が不要であるために、堂々と給付を受けることができる。また、「審査不要」ということは、現行の生活保護などと比べ、働く意欲が出るということでもある。さらに、現金給付であるため、自分の選ぶ方法でお金を使うことができる。
ただし、これでもまだ問題がある。いくら匿名でも、「一部の人間」だけがもらうのでは、偏見や差別はなくならない。「なぜ私たちはこんなに一生懸命働いて、他の人のために納税しなければいけないのか」という、(倒錯した)不満を抱える人たちがたくさん出てくるに決まっているからだ。この「不満」は全く的外れで、論じるに値するようなものではないが、しかし「常識」として通用してしまっているのだから仕方がない。
よって、この困難を乗り越えるためには、「すべての人たちがもらう」形で現金を給付するしかないのだ。
足早にここまで考えて見ると、貧困や貧困への恐怖を失くすためのセーフティーネットが具体的にどういう風になるのか、可能性はかなり狭くなる。というより、一択に絞られるとすらいえるだろう。ベーシックインカムである。
ベーシックインカムについては、今年、原田泰氏の『ベーシックインカム―国家は貧困問題を解決できるか』という本が出ている。この本の第3章が優れている。「ベーシックインカム」と一口に言っても、給付額や予算編成などによって、色々な形がある。従来のベーシックインカム議論はどんぶり勘定なものが多かったが、原田氏はより細かく国家予算を分析している。
社会学者のみならず、政治家や活動家も、「ベーシックインカムか否か」といったレベルでの議論はおしまいにして、「具体的にやるとしたら、日本ではどのようなベーシックインカム制度が考えられるか」という問いへと歩を進めるべきだろう。原田氏の著作は、この問いに取り組むための具体的な出発点を与えてくれる。