Sunday, 5 October 2014

天皇と憲法の関係

日本国憲法を読むと、天皇と憲法の関係がわかる。一方で、憲法は天皇によって公布される。そのため、憲法は天皇の意思である。しかし、他方では、天皇は憲法に書かれていることを守る義務を負う。そのため、憲法は天皇に対して制約を加える。天皇を無限の権力をもった個人だとするならば、憲法は天皇が自らその権力に制限を与える文書であるといえるかもしれない。

これと関連して、天皇は独断で憲法改正を行うことができない、と憲法は定めている。そのため、日本国憲法は、天皇が自らの絶対権力を自主的に放棄した証拠であるともいえる。

天皇と憲法のこうした関係は、近代国家の基盤を把握するために重要だと思う。国家は権力の分散によって安定する、という考え方がある。日本国憲法においては、この考え方は具体的に次のように実現されている。まず、抽象的権力をもつ君主としての天皇がいたかのように、憲法は天皇の絶対性を保持している。(この「かのように」は大切なところで、実際に天皇がそのような権力をもったことはない。) また、天皇が独断で政治を行う状態があったかのようにも、憲法は述べている。そして、憲法は、そうした権力をもっていた(かのように思われている)天皇が、自らその権力を、まさしく絶対権力の名の下に放棄した証拠なのである。そのため、仮に再び天皇が政治的権力を持とうとすれば、それは自らの絶対権力によって行った放棄行為をキャンセルすることと同じである。そうした場合、天皇は自らの行為の絶対性を妥協することとなり、もはや絶対権力を持たなくなる。しかし、絶対権力を持たない存在は、天皇ではない。そのため、天皇は、自らの絶対権力を否定する宿命に自らを置いたのである。しかし、同時に、具体的な政治活動を行わないと宣言することによって、天皇は否定的に絶対権力を保持し続けることになる。憲法は、こうした意味において、天皇が自らの権力を保証している文書でもある。

憲法における国会や裁判所の位置づけは、天皇と憲法のこうした関係を背景に解釈しないと正しく理解することができない。なぜ国会は天皇に「助言」する立場にあるのか、またなぜ裁判所は国会から独立しているのか、またさらに、なぜ最高裁判所の裁判官は天皇が任命するのにその他の裁判官は国会から任命されるのか、こうした疑問は、天皇がもつ否定的絶対権力から出発して考えてみる必要があるだろう。