Monday, 19 January 2015

TTPという新しい雇用の仕組み

TTPとは、テンプ・トゥー・パームの略。Temporary to permanentがもとになった造語だろうか。この新しい雇用形態を押す記事が東洋経済オンラインに載っている。詳細はこちら

これによれば、派遣会社は企業に人を派遣する。派遣された人は非正規雇用社員として最大半年間働く。もし会社の方で正社員登用するという意向が示されれば、この人はその会社の正社員となることができる。もしなれなかった場合、また新たな会社へと派遣される。

この制度の長所として、記事の筆者は「雇用のミスマッチを解消する」という点を挙げている。同じ記事の中で、筆者は約半数の若者が正社員になりたくないというアンケート結果にも触れ、非正規雇用の長所を「正規社員と比べて自由度を持って働くことができるワークスタイル」とまとめている。要するに、「自由度」を保ちつつ、正社員になる道も開いておくすばらしい制度として、筆者はTTPを押している。

TTPがこれから普及するかどうかは正直わからないが、これが普及した場合、雇用の「自由度」が上がるどころか、働く人にとってはさらに負担が増えることになるのではないか。

同じ記事の中で、筆者は非正規雇用を選ぶ若者の、「時間に縛られた働き方はしたくない、責任ある仕事には就きたくない、複数の職場で働いていたい」という声を紹介している。筆者はこれ以上深入りをしないのだが、私はこれは抽象的な「自由度」の問題ではないように思う。

まず、「時間に縛られた働き方」とは、サービス残業を覚悟で毎晩遅くまで会社に残る働き方のこと。次に、「責任ある仕事」とは、結果が残せなかった場合ボーナスがカットされたりさらなる残業を強いられたり、場合によってはパワハラや解雇すらありえるような仕事のこと。最後に、「複数の職場で働いていたい」とは、一つの職場で正社員として身を粉にして働いても、受け取れる給料は将来の安定を保証する額ではないし、またその会社に居続けても将来家族を養えるだけの給料がもえらえるようになる保証はない、ということ。

こうしてみてみると、若者の声は単なる「気持ち」の問題では全くなく、かなりリアルな問題と向き合った結果だといえるだろう。非正規雇用は、私も含め、若者にとっては苦渋の選択であり、鼻歌まじりに「自由」を謳歌しているわけでは全くない。「正社員として働きたい」という気持ちも当然あるが、昨今の職場環境を見ると、月給やボーナスを人参のように眼前にぶらさげられて、馬のように鞭打たれて働かなければいけないのではないか、などと考えてしまう。実際、例えば私の職場では、かなりの数の正社員が軽い憂鬱病のような状態である。つまり、仕事となると人格が変わるのだが、現場を終えてオフィスに戻ったとたんに幽霊のようになり、ちょっとした会話もできなくなる。中には、現場で突然キレたり、急に風邪で倒れて一週間休んでしまったり、などという正社員もいる。こうした光景を目の当たりにすると、「正社員になったら自分もああなるのか...」という躊躇の気持ちが芽生える。そして、恐らくこのような職場では、正社員にはならない方が良い。

ユニクロなどが非正規雇用社員を正社員にしたということが話題になっているらしいが、これなども、それ自体としては良いか悪いかが判断できない。全ては労働環境と給与体系にかかっている。過労を強いられる労働環境、将来性のない給与体系では、正社員になっても安定はしない。むしろ、正社員にしか頼めないような無理な仕事も引き受けなければならない分、生活は苦しくなるともいえるだろう。思うに、こうした正社員登用を受け入れる労働者は、家族などを抱えており、どうしてもお金が必要だから歯をくいしばってこうした条件をのむのではないだろうか。

TTPが普及すれば、正社員として働く人々がいる一方、TTP族のような、半年以内に去っていくさだめにある人々が職場に常にいることになる。こうした環境は、その職場の人事担当者や、TTP族の上司にとってプレッシャーのかかるものであり、他の正社員にとってもストレスとなりうる。特に、数ヶ月ごとに新しい人に仕事を一から教えなければならない手間は相当なものだろう。どんなに単純作業にみえる仕事も、実は覚えるべきことが多く、一朝一夕ではできるようになれないものなので、業界を問わずこの問題はある。

もう一つ、労働者の側からしてみても、TTPとはストレスの多い制度だろう。労働者の方も、そもそも派遣されるまでの間待たされ、派遣された後は低い給料で働かされ、そして正社員登用がされなかった場合、短期間でまた解雇される。新たな派遣先が決まっていなければかれは収入源がなくなるし、決まっていたとしても、また一から新しい職場のやり方を覚えなければならない。一年に二回以上転職させられ、貯金をすることもできずに時間をすごす―これは不毛だ。だったら、一つの職場で少なくとも一年、場合によっては正社員としても使ってもらえるほうがありがたいだろう。

記事の筆者は、TTPが普及されていないという事実を嘆いていたが、私は正直なところ、この制度はあまり広まるべきではないと思う。労働者が望んでいるのは、過労を強いられずに安定した給料が得られるような仕事を正社員として行うことである。これができないから、「若者」は色々と変則的な雇用形態に走らざるをえないのだ。